さんさんファームのリンゴ(長野県下伊那郡松川町)
松川町は南アルプスが眼前に広がり、町の中心を天竜川が流れる自然豊かな町。戦前は養蚕が盛んでしたが、今はリンゴや梨など果樹の産地として名が知られています。ここでリンゴの栽培から養豚、そしてソーセージの加工までさまざまなことに意欲的にチャレンジしているのが『さんさんファーム』。宮下彰さんを代表に、原 実さん、北沢公彦さん、橋場節子さんら、果樹専業農家の二代目・若手4人が中心メンバーです。今回はリンゴにスポットライトを当て、環境面の調査にうかがいました。
リンゴの堆肥の生産者!?豚は牧場でのびのびと
名古屋から車で1時間半、リンゴの調査に来たのですが、まずは豚とご対面。舎外で放牧しているのが『さんさんファーム』の特長です。放牧場に入ると、最初こそシャイだった豚たちもだんだん慣れてきて、普段通り牧草を食べたり、地面を掘り起こしてはやわらかい土を食べたりし始めました。なかなかカワイイ。普通の養豚場は狭い部屋にたくさんの豚を閉じ込めるように飼うところが多いのですが、ここではストレスもなくのびのびと暮らしているのがよくわかります。またエサも輸入したトウモロコシをやめて地元長野産大豆にするなど、国産のものを優先的に与えています。昼食には『さんさんファーム』の豚肉をいただきましたが、脂身がギトギトせず、とても美味でした。
さて、リンゴ園の前に牧場を拝見したのには理由があります。ここで発生する豚フンを木くずと混ぜて9ヵ月ほど発酵させると、悪臭もない良質の堆肥になります。これでリンゴ園の土づくりをします。いわば、豚は堆肥の原料生産者。一方、豚はリンゴも大好き。『さんさんファーム』では、売り物にならないリンゴは捨てずに豚のエサにしています。まさに「地域循環」そのものですね。
甘くて果汁たっぷりのリンゴは虫にもごちそう
リンゴといえば甘くておいしい果物ですが、それは虫にとっても同じこと。やわらかい皮と糖質はお腹の空いた虫にとってうれしいごちそうです。しかし人間は、虫にリンゴを食べられては困るから、彼らを「害虫」と名付け、あの手この手でリンゴを守ります。一番簡単な方法は殺虫剤。機械を操作するだけで殺虫剤を農園全体に散布し、害虫を大幅に減らすことができます。ただご存知の通り、殺虫剤は「害虫」を食べてくれる「益虫」も減らしてしまいます。一時的には問題はないかもしれませんが、翌年になると益虫がいないことで再び害虫が大量発生してしまいます。その結果、毎年毎年殺虫剤が必要になってしまうのです。
ここ松川町の組合は共同防除で、殺虫・殺菌剤を交代で散布しており、散布回数は年間で16回程度。これでは生態系のバランスは崩れてしまいます。しかも人間への健康も心配されるので、共同防除の日は子どもがあまり外で遊ばないように気をつけるそうです。一方、『さんさんファーム』は組合には入らず、散布回数は8回とし、殺菌剤自体の濃度も半分程度に薄くして使います。また、害虫を防ぐためには殺虫剤ではなく、害虫のフェロモンを使って繁殖を妨げる資材を使うなど工夫を凝らしています。さらに、雑草は除草剤を使わず草刈機で刈るなど、さまざまなところに配慮が見て取れました。
リンゴと地球温暖化、その影響は?
このような『さんさんファーム』の取り組みを地球環境、特に地球温暖化の観点から調査しました。比較計算したのは、現状の栽培と、共同防除の組合に参加して農薬を散布したうえで、肥料も化学肥料に換えた場合(慣行農法という)です。
もし『さんさんファーム』が慣行栽培に変えてしまったとすると、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素が3倍ぐらい増えてしまうことがわかりました。主な原因は農薬。農薬は製造する段階で地球温暖化の原因となる二酸化炭素を多量に排出します。『さんさんファーム』のリンゴは、堆肥を使い、農薬をできる限り減らすことで、地球温暖化防止にも意義がありそうです。
『さんさんファーム』のリンゴづくりが結果として環境に配慮した形になったのは偶然ではないでしょう。農薬や化学肥料のような、その「製造方法」や「作用」がわかりにくいものではなく、自分の目が届く範囲のものをうまく利用して食を作り出す姿勢が、結果的に今の農業スタイルにつながったといえます。逆にいえば、地域にあるものを上手に組み合わせて食を作ることができたら、それは環境にも良い、持続可能な食になるといえるのではないでしょうか。
食は創るもの
メンバーの1人・北沢さんは「農業というのは食をつくる作業。だからリンゴ農園がリンゴしか作ってないのはおかしいと思う。野菜でも何でも作ってみたい。食うものをすべて作るのが農業だと思う」といいます。この考え方はドイツを訪問し、よりいっそう強くなったそうです。
「ドイツのビールとソーセージはおいしかった(笑)。でもそれだけでなく、国民みんなが農業を守るという意気込みを持っているのがわかった。"農産物を買うことによって農家を、農業を守っている"という意識がすごく強い。日本もそういう気持ちになってくれればうれしい。そのためには、農家だけが農業をするのでなく、やりたい人間がやりたいものを作っていけるようになったらいいと思う」
これまでも"豚育て隊""ファーム体験隊"などの体験イベントや、Iターンの新規就農者を積極的に受け入れてきました。1日楽しんで終わりではなく、もっと生活の一部となるような交流プログラムを模索しています。
「実は交流という言葉もあまり好きではないんです」と北沢さん。その姿勢から、"生産者も消費者も、同じ仲間として食を作りあげていきたい"という思いを感じました。私たち消費者も"消費をするだけの者"ではなく、生産にも関わる者として一緒に食を作っていくことが、安心して食べられる、持続可能な"これからの食"のように思えました。








