杉浦さんの田んぼ(愛知県知多郡美浜町)
愛知県・知多半島の先っぽにある美浜町は、豊かな里山を擁し、自然の恵みにあふれた土地。『杉浦さんのお米』の生産者であり、毎年"米作り隊"(会員参加型イベント。田植え~収穫までを体験)でお世話になる、杉浦さんの田んぼもここにあります。杉浦さんは、農業を通して地元で活躍中。気さくな人柄とさわやかな笑顔が印象的で、家に帰れば3人の男の子たちのお父さんです。
「米づくりは、僕にとって"原風景をなくさないための取り組み"。この美浜町も15年前に区画整理され、それまでの棚田はみんな平らな水田になってしまいました。せめて、これ以上田んぼを減らしたくないという気持ちが強いのです」
田植えの時、田んぼにはおたまじゃくしやタガメが泳ぐ。収穫の時、カエルが飛び跳ね、トンボが舞う。杉浦さんが「食糧生産だけでなく、生態系も守りたい」と言うように、田んぼは生きものがいっぱいです。名古屋からきた子どもがカエルを自分で捕まえて喜び、カマキリを恐る恐る触っているのを見ると、ここは貴重な体験学習ができる教室でもあることがわかります。
また、杉浦さんは肥料となる堆肥を、地元の牛舎から出る牛ふんと籾がらを混ぜて作っています。もし牛ふんを使わなかったら、牛ふんはやっかいな廃棄物。エネルギーをかけて処理しなければなりません。今時の言葉でいうとまさにゼロエミッションですね。さらに海外から肥料の原料を運んできる必要もないので、輸送に必要なエネルギーも少しで済みます。
地球環境への影響は?
まず杉浦さんが使っている農薬を作る時やトラクターなどの機械を使った時のCO2排出量を調べました。そして、もし杉浦さんが化学肥料と農薬を使う慣行栽培をしたらどうなるかについても調査しました。その結果、杉浦さんは慣行(一般)栽培に比べて30%ほど地球温暖化への影響が少ないことがわかりました(下図)。グラフからもわかるとおり、肥料と農薬を作る時の地球温暖化への影響がかなり少ないことがわかります。このことから杉浦さんのお米は地球温暖化防止に貢献しているともいえます。

もっと環境に良くするには?
すでに杉浦さんは少しでも環境に配慮した農業をするために、できるだけ農薬の使用量を減らしています(育苗時に殺虫・殺菌混合1回...規定量の2/3、田植え直後に除草剤1回使用のみ。穂が出てから殺虫殺菌とも一切使用せず)。以前、農薬を減らしすぎてイネゾウムシという害虫にお米が食べられ、収穫がゼロになってしまったこともあるそうです。現在の使用量はこういった過去の経験を踏まえたうえで、できる限り少なくした量だそうです。
そうなると、やはり改善個所といえば農機具の使用による地球温暖化への影響です。農機具の影響の原因を詳しく見てみると、お米を収穫してから乾燥する時に使う乾燥機の影響が大きな割合を占めていることがわかりました。ここをなんとか改善すればさらに良くなるのですが、どうすればいいのでしょうか?
収穫から乾燥まで
今は刈り取りから乾燥までを機械でおこなっていますが、乾燥機がなかった時代には鎌で収穫した後天日で乾燥させていました。しかし例えば3反のお米を収穫するのに、機械を使えば1人でわずか1時間程度の作業が、手作業だと3人で1週間ぐらいかかってしまうそうです。もし人を雇って手作業でおこなえば、環境には良くなるかもしれませんが、お米の価格はとんでもなく高くなってしまいます。
杉浦さんは「機械は道具として貴重なものです。昔は1町(10反)で生活ができましたが、今は120反で生活しています。お米の価格が安いので広い面積で農業をしないと生活ができないのです」と言います。つまり、お米を安く消費者に提供するために大量生産をしなければならず、そのためには機械を使わざるをえないということなのです。
考えてみると、化学肥料や農薬はもっと人手を少なくして安くお米を提供するための道具にもなりますが、これらを使うと環境への影響が高くなってしまいます。杉浦さんの栽培方法は、長年の経験から生まれた適度なバランスで成り立っているのかもしれませんね。
これからのお米づくり
持続可能な農業、つまり100年先200年先の子どもたちまで続けることのできる農業とはどんなものなのでしょうか?杉浦さんは「難しいですね」と前置きをしたうえで「東南アジアの農業のように牛なんかがいて、家族で自給的な有機農業をする。それができて、なおかつ商品化できる農作物を作る農業かな」と答えてくれました。
しかし現実は、生活が成り立ちにくいということで後継者が不足するなど問題点もあります。ここ美浜町布土で農業に就事する人は現在20~30人ですが、数年後には5人ぐらいになるかもしれないそうです。持続可能な農業をするには、私たち消費者が田んぼを単なる食糧生産の場だけでなく、生態系の保全や教育・交流の場としての価値も改めて見直していく必要がありそうです。








