日常茶飯事~お茶のはなし
ごはんを食べた後、人と話す時、ちょっとあらたまった席...私たち日本人にとって「お茶」は、ふだんの日にも晴れの日にも欠かせない飲みもの。しかも単なる飲みものを超えて、うつわや生け花、しつらい、建築、美意識まで含んだ「茶道」という文化をも生み出しました。
熱いお湯で茶葉のエキスをきゅーっと抽出するのが、ふつうのお茶の飲み方。お抹茶にいたっては、まるごと飲みこんでしまってるわけです。もちろん、どちらも洗わない...。
そういえば、スーパーにも「無農薬茶」が並んでいます。ということは、何も書いてないお茶には農薬が使われているのでしょうか?毎日かる~い気持ちで飲むものだから、「大丈夫かな」なんて、いちいち考えなくてもいいものを選びたいと思うのですが...。
《すべてのお茶は一本の木から生まれた》
緑茶、新茶、煎茶、番茶、紅茶、ウーロン茶...ひとくちにお茶といっても、いろんな種類があります。しかし元をただせば、みな同じ一本の茶の木から摘んだ葉っぱ。摘んですぐ葉を蒸し、発酵を止めて作
れば「緑茶」(不発酵茶)に、摘んだ後陽にあてて発酵させ、香りが出たら釜で炒って発酵を止めて作れば「ウーロン茶」(半発酵茶)になります。葉をしおらせて茶色にしてから、よく揉んで発酵させて作れば「紅茶」(発酵茶)に。さらに、木の品種・産地・摘む時期・製法などによって細かく分かれます。もっとも、それぞれのお茶に適した気候や風土があり、その条件のもとでこそ特徴的な風味が生まれるため、一つの産地で作るのはそのいずれかになります。希少な例が、熊本県水俣市石飛の『天野製茶園』。祖父の代から受け継いだ茶園で、天野 茂さん・浩さん親子が無農薬栽培に取り組んでいます。地元で起きた水俣病(工場廃水中の水銀が原因とされる)がきっかけで、薬剤の使用に疑問を抱き、栽培を切り替えました。五月初旬に摘む新茶(一番茶)は緑茶に、六月中旬に摘む二番茶以降のお茶を、完全発酵させて紅茶にしています。
《無農薬にしたらテントウムシがやってきた》
お茶農家の方に聞いたところ、一年間の生活にはずいぶんメリハリがあるとか。茶摘みと加工の時期は初夏に限られるため、その期間は猛烈に忙しく、同時に、一年間の売上の大半がここで決まってしまうから、失敗は許されないそうです。いきおい、農薬頼りになってしまうことも...。
滋賀県信楽町朝宮のお茶農家・片木 明さん(『かたぎ古香園』)も、以前はそうだったといいます。害虫一種類につき一種類の農薬を年に10回以上、合計すれば20~30回も散布し続けたあげく、薬で身体をこわしてしまいました。こんなに農薬をかけたものを、お客さんに渡していいものかと疑問を抱き、30年ほど前から無農薬栽培に挑戦を始めました。
「最初の年は全滅。緑色だった葉は黄色から赤に変わり、枯れて落ちてしまったので、根元だけ残して刈り取りました。これを3年繰り返し、並行して土づくりもおこなったところ、
4年めに初めて7割ぐらい収穫できたんです。テントウムシやウグイスなど、益虫や益鳥が増え、バランスが取れるようになったからです。現在も害虫は天敵に、病気の方はこの24年間で茶の木に備わった自然の抵抗力に"おまかせ"しています」
そのかわり、圧搾しぼりの油粕(化学薬品を使って搾っていない油の粕)や天然醸造の焼酎粕、養殖でない魚の粕などをたっぷり施し、生き生きした土づくりをしているそうです。片木さんの茶畑の土を踏みしめるとフカフカとやわらかく、腐葉土のいい匂いがして、ミミズがたくさんいました。
《安全なお茶づくりを応援しよう》
お茶栽培の問題は、農薬だけではありません。グルタミン酸ナトリウムや重炭酸アンモニウム(きれいな緑色にする)が添加されたものも出まわっています。にもかかわらず、これらの茶葉は「原料」として他の茶葉に混ぜて出荷されるため、表示されることはないのです。製品を作る時に直接使った添加物は表示義務がありますが、原料に含まれる添加物にはその義務がないためです。そこまでしないと売れないのでしょうか...。
しかし食べものの安全性や、農薬・化学肥料がまわりの環境にもたらす影響が気になる人が増えてきているのも事実。実際に、無農薬での栽培に切り替え、成功している例もあるのです。こうしたお茶を買って飲むことは、「安全なお茶づくり」を応援することにつながります。何気なく飲む一杯のお茶にも、たくさんの願いがこもっていると思うと、ティータイムはいっそう豊かになることでしょう。
*この原稿はにんじんCLUBが環境情報紙「Risa」1999年10月号に掲載した記事をもとに、加筆修正したものです。








