かかる期間は、およそ14ヵ月~お酢のはなし~
《日本酒にワインに...酢のルーツは地酒》
祝い事につきもののお寿司、春を告げる青柳とわけぎの酢味噌和え、つくしや葉わさびなどの野の幸の酢漬け...古来から使われてきた"酢"は、目立たずとも欠かせない、大切な調味料です。そのルーツは、米やブドウなど地元で豊富にとれる農産物を醸して造った「地酒」。ワインビネガーはワインから、モルトビネガーはビールから、そして日本では米から造る酒を酢酸発酵させた「米酢」が誕生したのです。
かつての酢づくりといえば、まず米から酒を造り、酢を造るのが当たり前でした。しかし残念ながら現在市販されている酢の多くは、廃糖蜜などから造られた醸造アルコールを買ってきて主原料としたもの。法律では、1リットルの酢を造るのに米を40g以上使っていれば「米酢」と表示できますが、それだけではちゃんと酸っぱくならないので、米でなく醸造アルコールで補っているのです(*)。
《酢を思うゆえに米を思う》
京都府宮津市の『飯尾醸造』では、酢を造るために、原料となる酒(「酢もともろみ」という)を造るところから始まります。1リットル中に40gどころかその5倍にあたる200gもの米を使っており、しかもそれは、なんと昭和39年から契約農家に作ってもらっているという無農薬コシヒカリ。
「ちょうど毒性の強い農薬が使われ始めた頃ですね。当時は農薬が撒かれた田んぼには赤い旗を
立て、絶対に近づいてはいけないといわれました。同じ頃、たくさんいたはずのメダカやドジョウ、フナなどが、田んぼのまわりから姿を消しました。父は、そんな変化を目の当たりにして、"うちの酢の原料は、農薬を使わずに育てた米を使おう"と決めたようです」と、四代目社長の飯尾 毅さん。『純米富士酢』は、コクのある風味を持つ骨太の純米酢。たっぷりと使われた米が、この厚みのある味わいを作っていることがよくわかります。味の決め手、そして安全性の決め手である無農薬米づくりを無理なく続けるために、飯尾さんは農家のサポートを惜しみません。近年は後継者がいないため高齢化し棚田での米づくりが困難になっていることから、社員による米づくりはもとより、NPO里山ネットワーク世屋を作って京都の大学などと連携し、米づくりを支援しています。
「米づくり担当の社員が2名おり、ここから車で45分かけて通います。田植え、草取り、稲刈りなど人手のいる時は、週4日の瓶詰め作業を3日で済ませて、1日みんなで田んぼに上がります。社員の米づくりはもう3年ですが、こういう体制にしたのは去年から。今では棚田の3分の1以上は社員がつくっています。私も4枚は一人で稲刈りしました」
《時間のなせるわざ》
もう一つの特長は、じっくりと時間をかけて熟成させること。1.5ヵ月かけて造った酒に、種酢と水を入れ、酢酸菌を浮かべて酢酸発酵させるのに3~4ヵ月ほどかかります。しかしまだこれで終りではありません。さらに8ヵ月以上熟成させることで、できたばかりの頃はツンととがっていた味が、まろやかに仕上がります。ここまでかかる時間を合計すると、およそ14ヵ月(計420日ほど)。
「造り方も、私どもも、昔ながらに杜氏がきて酒づくりに45日間かけます。もっとも杜氏も高齢化が進んでいますから、将来を見越して社内で杜氏を育ててきたので、今年からは社内スタッフだけで酒づくりをしています。それと、できたての酢はツンとするばかりで全然おいしくないので、8ヵ月間熟成させる。つまり作り始めてから瓶詰めまでおよそ14ヵ月かかります。ゆっくりつくることによって、まろやかな酢になる。また、月に一度は"澱引き"といって寝かしているタンクを別のタンクに移し変えますが、その時空気にふれて、一層まろやかになります。こうして刺激が少なくアミノ酸や有機酸の多い酢になるんです。そういったところが一般的なお酢屋さんと、私とこの違いといえます」
一方、醸造アルコールを買ったり、酵素で糖度を上げ短期間で作った酢もともろみを原料に、速醸法(発酵タンク全体に空気を泡のように送り込む装置で発酵を促し、短期間で製造する方法)をもってすれば、わずか2~3日で発酵が終わってしまいます。この後1ヵ月熟成させてから出荷されますが(計33日ほど)、店に並べばどちらも同じ「米酢」。はたして味や身体へのはたらきは同じといえるのでしょうか...。








