川野屋(埼玉県川越市)
2009/2/17 14:15
「このあたりの農家はみんな兼業でね。作物はさまざまにあったけど、農繁期には会社を休み休みしてやっていたんですよね。今は農家も少なくなったけど...。 父親も、もとは機械関係の仕事との兼業だったんですが、家を出た兄弟のみんながそれぞれ事業をしていて、ここ(家の土地)を自分が守らなきゃ、という気持ちでがんばってきたのですが、息子達が大学卒業したのと同時に、〈好きなことやる、だんご屋やるんだ〉って一念発起。ちょうど、今の工場の蒸し器が置いてある場所に、一間幅の小さなだんご屋を始めたんですよ」
そもそも、川越はもともと、だんごづくりが盛んな土地。
「30軒以上あるんじゃないかな。小さなだんご屋さんは、みんな米粉を使って、手でこねて、丸めてから蒸して串に刺したり、串に刺してから蒸したり、さまざま。うちはあえて機械で作っています」
川越だんごは、もちというよりも、ごはんをこねたような食感が特徴。粘り気やコシは少なく、時間がたつと硬くなりやすいのですが、川野さんのだんごは違います。なめらかでしこしことした弾力があり、食感ももっちもち!
「店で、昔のだんごはないの?って言われることもあるけどね。うちはこれが一番おいしいと思って作ってますね」
それというのも、だんご作りの盛んな町にありながら、お父さんはまったくの独学でだんごづくりを始めたのです。【新和菓子体系】という分厚い本とにらめっこしながら...。すんなりと川越だんごを作ろう、と発想するのではなく、「どうやってだんごを作ろうか」と考え、まわりのだんご屋のやり方に影響されることなく、機械でこねる弾力のあるだんご作りを選びました。そこからは、おいしさを一から考えたらこうなる、というものづくりのシンプルな気概を感じます。
「一番苦労したのは、だんごよりも、どら焼き。どら焼きは、熱伝導のいい銅板で焼くものなんですが、最初は焼きそば用の鉄板で焼いていました。焦げちゃったり、膨らむとこと生やけのとこがあったり、縞模様になってしまったりで、相当大変でした。今では笑い話のようですが...」
どら焼きの皮の命は、きれいな焼き目と、生地の"浮き"。"浮き"というのは、空気がふんわり入って膨らむときにできる、縦に入る細い空気の穴のことです。その高さ(しっかり膨らんでいるかどうか)と、まんべんなく細かく入っていること(きめ細やかなしっとり感があるかどうか)、これが、どら焼きの皮のおいしさの決め手になります。
ここでも、焼き方に一から取り組んだ川野さん。川野屋のどら焼きは、1枚1枚手返しで焼いた食感が自慢なのです。ふわっとして、香ばしい生地には、自前の銅鍋で炊いている餡のちょうどいい甘さがぴったりです。自分で毎日焼くたびに、うまそうだな~!と思うのだとか。
「若い衆にもよく言うんですが、お前が食べておいしいと思うものを作れって。私が大事にしているのは、自分が食べたくなるようなもの以外作らないっていうことです」
焼くのは、2~3名の若い衆と作業を分担しています。一度は、若い衆の焼いたものの仕上がりがどうしても良くなく、「おい、これを本当に自分が食べたいと思うか?」と叱り、焼いたものを目の前ですべて捨ててしまったこともあるのだとか。しっかりと、一から作り直しをしたそうです。手焼きでしっとりふわっと焼き上がった『川野屋』自慢のどら焼きは、こだわりの味でもあるのです。






